家族・私有財産・国家の起源―ルイス・H.モーガンの研究に関連して (1965年) (岩波文庫)

古い時代のインディアンなどの氏族社会の描写等にかなりの頁が割かれており、興味のない人間にとっては退屈な部分もあるが、アナーキズム、フェミニズムなどの左派思想のルーツとなった思想体系を示し、リベラル、保守主義問わず一読する価値がある書物と言える。著者はルソーの影響を受けていると思われ、古代の氏族社会の分析から初め現在のシステム（国家、私有財産制etc）に至る道筋を示すやり方が、「人間不平等起源論」の論理構成に似ていると思った。エンゲルスの古い時代「氏族社会」が持つ（と彼が主張する）自由・平等・友愛への強い憧憬は、野生人社会に一つの理想を見いだし、「自然へ帰れ」といったルソーに通じるものがある。共産主義の人は、何事にでも「搾取の対立構造」を持ち出し、闘争による解消を主張するところが面白い。エンゲルスによると、家庭内では夫がブルジョワジー、妻がプロレタリアートで妻が夫に搾取されているので、家族解体を行い女性の社会進出を促すべきらしい。伝統的な家族体制が崩れ女性の社会進出が進んだ現代社会において、先進国では軒並み離婚が増加し、日本でも児童虐待など増え家族の融解が進んでいる現状を見ると、家族解体→女性の社会進出という原因と結果が逆ではあるが、エンゲルスの主張するところになっているのかも知れない。またこうした家族解体の結果、社会の性風俗の乱れの発生に関するエンゲルスの予言は慧眼である。「私的家庭は一つの社会的産業に転化し・・・・いっそう無遠慮な性交を、したがってまた処女の誇りや女の恥についてのいっそうルーズな世論をしだいに生じされる・・・」個人的にはエンゲルスなどの共産主義思想は伝統社会の良い部分を崩壊させ社会全体にマイナスの方がはるかに多かったと考えるが、現在にいたる奴隷制度の廃止や男女の機会が促された点は評価して良いかもしれない。